僕は26歳のときに独立した。早いものであれからすでに五年以上の歳月が過ぎている。ただいま32歳、いわゆる「おっさん」の部類に入った。(笑)
独立してよかったこと、奇麗事のように聞こえるかもしれないけれど、それはやっぱりいろんな人に出会えたこと。東京から田舎に帰って自分の事業を起こしていなければ、こっちで逢ったたくさんの同級生たちとの再会でさえ、難しかったと思う。大げさではなく出会いは宝だ。
3,4年ほど前だろうか、僕が湯田店にいたころ、ちょうどアルバイトの子が帰って単独で営業していたら、一人で来られていた一見さんの男性が、僕に向かって、「店長ちょっといいですか」って手招きをして呼んできた。その場で何かを注文されたり話しかけられたりすることはあっても、8坪しかないあの小さな空間の中で、わざわざ自分の席のところまで呼び出されるようなことはあまりない。「なんか失敗しちゃったかな?」っておもわずケチな心配をしながら近づくと、男性は僕に一言、「00の父です。」と、うれしそうに言った。この男性は近所に住んでいる、僕のお店の常連さんのお父さんだった。お父さんは息子が僕のお店に足繁く通ってくれていることを知っていた。知っていたから前から覗いてみたかったそうだけれど、父親が自分だけの領域に入って来ることを、息子が嫌がることがわかっていたから、なかなか来れず、今日はたまたま出張で息子が山口にいないことがわかっていたからわざわざそこを見計らって僕の顔を見に来たのだといっていた。どうしても僕の顔を見てみたかったのだと。
本音かどうかはともかく、お父さんは僕の顔を見て安心しましたといってくれていた。そして帰り際、息子にはこのことは絶対に秘密にしてくれといい、僕はその約束を守り、素知らぬ顔をして、それまでと全く変わらずにずっとその息子と付き合っていた。不器用ながらも子を思い、息子のことをもっとよく知りたいと願う父の想いに、僕は強く心打たれた。
事業主だから、立場上、もちろんちゃんといろんなことに注意していなきゃいけない。事業自体が継続、繁栄するためにやらなければならないことはいっぱいある。でも僕の心に長く残っていくだろうと思うのはこういうことだ。決して数値化するようなことは出来ない、だけど間違いなくそこに存在する、強い想い、人と出会うことで、そういうものにめぐり合うことが出来る、大変ありがたいことだと思う。あの夜のことは忘れないだろう。
ちなみに現在、この息子は僕から引継いで、この「春がきた 湯田店」の店長に納まっており、お父さんはたまにお店で飲んだくれて息子にしかられている。(笑)「春きた 人情物語 湯田店編」。残念ながら湯田店は道路の拡張のため、いずれ引越し予定となっているが、僕は彼にお店を任せてよかったと思っている。
- 2007/10/16(火) 00:57:42|
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